生成AIの登場からおよそ1年半、世界では依然、その革新性とリスクについて様々な議論が絶えない。では、企業はどのように有効活用し、優位性を確保すればいいのか。産官学の連携を通じて日本の競争力向上を目指すIMDの「日本経営変革フォーラム(JMTF)」は、4月11日、アミット・ジョシ教授を招聘してセミナーを開催した。
ジョシ教授は、AIやアナリティクス、マーケティング戦略を専門とするこの分野の第一人者。当日は日本を代表する様々な企業や行政組織の幹部、約40名が集まり、活発なセッションが展開された。
ジョシ教授はまず、マシンラーニング(機械学習)から生成AIへの進化について解説。マシンラーニングの「パターン認識」がトランスフォーマーによって強化され、AIは「言語の『オートコンプリート(自動補完機)』になった」と指摘。これによって、「AIは文脈(コンテクスト)を理解する」ようになった。
そして、現代の消費者の生成AI活用法について言及(下図)。
では、ビジネスではどのような活用が望ましいのか。代表的なものとしてジョシ教授が挙げたのは、「ナレッジマネジメント(knowledge management)」と「プログラミング支援」だ。
ここで言うナレッジマネジメントは、データ整理やレポートの要約といった地道な作業を指す。生成AIはこうした作業の時間を大幅に短縮する「価値の高い」サービスを提供する。ただし現時点では間違った情報を生成する可能性(ハルシネーション=hallucination)も否定できず、「カスタマー向けではなく、あくまでも社内向けのアプリとしての活用が望ましい」。
さらに生成AIは、「人の不得意な分野を『平均値』まで引き上げてくれる」。加えて、「プロボカター(provocateur、斬新なアイデア・意見の提供者)」としての役割。例えばプレゼンテーションなど、制作した資料へのフィードバックをAIに委ねれば、「『デジタル・ボード・オブ・ディレクター』として活用することもできる」と述べた。
そして見過ごしてはならないのが、現時点での課題だ。ジョシ教授が挙げたのは3点。1) コスト:コンピューティングによる電力や水の膨大な消費、温室効果ガスの排出 2) 倫理性:どう正確性を高め、バイアスを正し、著作権をクリアするか 3)規制:個人情報・著作権保護とイノベーション促進とのバランスをいかに適度に保つか。依然として多くの国々は適切な規制の施行に苦慮。
そして、「今後はいかに多くの人々が生成AIを活用でき、ベストプラクティスを共有できるか、そして適切な規制を設けられるかが成功の鍵になる」と括った。
ジョシ教授の後を受け、一條和生IMD教授が登壇。生成AIが日本に及ぼす影響について端的に解説した。
「日本の労働力不足は今後深刻化する。それを補う『働き手 = replacement』として、生成AIの役割は極めて重要」。さらにその普及により、「初めから答えを教えるのではなく、『正しい問い』を考える力を養う教育が肝要になる」。「IMDも経営者に正解は教えません。正しい解を自ら見つける能力を備えるため、日本も教育制度の抜本的見直しが必要」と述べた。
ジョシ教授はこの後、日本のIMDアルムナイクラブ(EMBA及びMBA卒業生)が催した懇親会に出席。集まった20名ほどのメンバーと、生成AIに関するよりインフォーマルで濃密な対話を交わした。
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