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イノベーションの最前線を学ぶ 『AI/DX Boot Camp』

M・ウェイド教授を招聘して開かれたIMDの共催イベント。産官学から多数の出席者が参加、活発な議論が展開された。

急成長を遂げるビジネス映像メディア「PIVOT」とIMDの共催による双方向的セッション、『AI/DX Boot Camp』が11月2日、マイケル・ウェイドIMD教授を招いて東京ミッドタウン八重洲で開催された。

当日集まったのは、文字通り日本の産官学を代表する約100名の人々。セッションは4部に分かれ、「生成AIの謎を解く」「DX×GX(グリーントランスフォーメーション)」「DXのオーケストレーション:ビジネス価値の創造」「アジリティ(俊敏性)とDXの未来」といったテーマで展開。締め括りには、出席者のネットワーキングを目的とした立食形式のパーティーも催された。

後半のセッションでは、ウェイド教授がビジネスを成功へと導く要素を総括。要点は主に3つで、まずは「正しい情報に基づいた明確な意思決定」。これには明快な認識と迅速な実行力が求められる。また、「アジリティとロバスト(頑健)性」。この2つをバランス良く組み合わせ、危機に瀕した際に速やかに対応することが肝要となる。さらに、「失敗を受け入れる寛容さ」。失敗を恐れてリスクを取らないことが、企業にとって進化の妨げとなることは明らかだ。

セッションの中で出席者の議論がヒートアップしたのは、他国と比較した日本のデジタル競争力がテーマになった時。IMDが発表した昨年の世界ランキングで、日本は64カ国中32位と過去最低を記録した。「日本は科学技術やロボティクス、教育水準の高さで素晴らしい基盤を備えている。トップ10に入る潜在性は十分にあります」とのウェイド教授の発言を受け、出席者たちからは様々な意見が。

「デジタル面で劣っていることは誰もが認識している。行動が伴っていないのが、下位に甘んじている原因」「企業文化を変えることが重要。大企業のCEOでも、スタートアップ企業のスピリットから学ぶべきものがある」「まずは己が変わること。でなければ、企業文化は変えられない」「我々は本当に変わりたいと思っているのだろうか。変わらなくても生活の質を維持できていることが、進化を妨げる要因」……等々。

活発なセッションを終えた後のネットワーキングの場では、出席者たちから口々にポジティブな感想が寄せられた。

「とても刺激になった。印象に残ったテーマは企業変革のアプローチ。競争力ランキングに関しては、順位に一喜一憂するのではなく、より客観的な目線で捉えるべきだと感じています」(パナソニック コネクト執行役員 / チーフインフォメーションオフィサー 河野昭彦氏)

「難解なテーマを(ウェイド教授は)わかりやすく話してくれた。インタラクティブなセッションというのは、良い意味で非常に考えさせられます。オーディエンスのレベルや意識も高く、IMDのコミュニティの作り方もデザインされていると感じた」(三菱商事デジタルソリューション本部デジタル事業部長 吉成雄一郎氏ヒューマンリンク代表取締役社長 濱健一郎氏)

「こうした交流で、AIやサステナビリティのアプローチに関して他社との比較ができる。弊社はAI活用がまだ不十分であると改めて感じました」(リクルート ワン・クローム氏、黒田汐音氏)

「このように多様な人たちとの交流は極めて大事。DXに対するアプローチを、様々な企業が同じ目線で捉えられた点が良かった。IMDのランキングは、常に1つの指標としています」(経済産業省商務情報政策局ITイノベーション課課長 内田了司氏)

「テーマの設定がうまく、一貫性があった。セッションがインタラクティブだったので、米国の大学が主催するセッションなどと比べ没入感がありました。また、米国ではこうした催しが業界別に行われることが多い。今日のように様々な人たちが一堂に会した点も非常に良かった」(名古屋商科大学ビジネススクール東京校教授 / デジタル経営センター所長  根来龍之氏)

「課題がわかっているのに、その解決になかなか取り組めない −− この点こそが日本企業の大きな課題。こういう場が増えることで自社や己の立ち位置を再確認し、『悔しい思い』をすることが大きなモチベーションになるのではないでしょうか」(一橋大学大学院経営管理研究科教授 藤川佳則氏)

「(ウェイド教授が)アジリティを『因数分解』したところが良かった。聞いている側としては、ストンと腑に落ちました。セッション毎にオーディエンスの席替えをして、様々な業種の人たちと交流できた点も秀逸」(産業革新機構執行役員 / スタートアップゲノム代表取締役社長 西口尚宏氏)

また、オブザーバーとして出席したコニカミノルタ元取締役執行会長・現シニアアドバイザーの山名昌衛氏は、今後の日本企業の取るべき方向性について以下のように語った。「集団で責任を取る体制は、もう機能しない。責任を明確化するためにも、日本でもエリートを抜擢し、良いプレッシャーを与えて彼らのプロ意識を育んでいくべきでしょう。スポーツ界と同じように、『ビジネスアスリート』を育てるべきなのです」

ウェイド教授も一日のセッションを振り返り、以下のように感想を語った。「日本で初めて講義をしたのは7〜8年前ですが、当時は今日のように、出席者が一日中英語で熱のこもった議論を交えるという状況は考えられなかった。こういう場がつくり出せたこと自体、日本の潜在力を象徴していると感じます」

主催者PIVOTの佐々木紀彦代表取締役社長は、イベントの意義をこのように述べる。「目指しているのは、刺激的な学びの場をつくること。英語でセッションをすることによって、出席者全員がフラットになれる。個人個人が様々な側面を出すのにとても良い機会になると考えています。アスリートに例えれば、『高地トレーニング』のようなものでしょうか(笑)」

そして、IMDの高津尚志・北東アジア代表がこのように締め括った。「産官学の世代や領域を超えた対話を創出し、IMDが持つ世界各国の知見や枠組みを日本にもたらす −− そうすることで、日本に未来への希望を生み出し、競争力向上に貢献していきたい。今日は冒頭のセッションから最後のネットワーキングまで、非常に熱気に満ちたやり取りや交流が繰り広げられました。日本の未来を築くポテンシャルを、存分に体感できた一日でした」