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私のIMD留学体験(第4回)
〜 EMBA / 武田章男
(プライム プラネット
エナジー&ソリューション)

スイスのIMDでMBAやEMBA(Executive MBA)を取得した人々が、その体験談を語るシリーズの第4回。今回ご紹介するのは、パナソニックとトヨタ自動車の合弁会社「プライム プラネット エナジー&ソリューションズ」でGX(グリーントランスフォーメーション)戦略本部副本部長を務める武田章男さんだ。

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2017年の卒業式で

 

まさしく、野球漬けの青春だった。今では北海道の強豪校に名を連ねる高校で、投手として活躍。毎日、日が暮れるまで白球を追い続けた。目指したのはもちろん、甲子園。「正直、勉強は全くしませんでした。教科書もろくに読まない高校生だった(笑)」

そんな武田さんが、大学に入ると一念発起。生活の全てだった野球をあっさりと捨て、それまでおろそかにしていた勉学に没頭した。専攻したのは経営学。そして、いつか世界トップクラスの教育を受けてみたいと考えるようになった。「その頃は米国の高等教育が注目されていた時代でした。でも、ある大学ランキングでスイスの大学が上位に名を連ねていることを知った。IMDのこともその時に知り、ずっと頭に残っていました」

当時はバブル経済が崩壊してから10年ほど。日本の低迷を尻目に、米国ではIT企業が注目を集め、GEやIBMといった「古豪」も復活。欧州や韓国の企業もどんどん日本ブランドを追い越していった。

「危機に瀕した日本企業を蘇らせ、再び日本を良くしたい」 −− いかにもスポーツマンらしい、清々しい大志を抱いた武田さん。大学卒業後は松下電器(現パナソニック)に入社。8年後には早くも中東・アフリカ事務所の責任者となり、市場開拓に奔走した。その3年後にはドイツに渡り、会社統合・分割、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション、M&A後の統合プロセス)に携わった。

だが、そこで実感したのは日本的経営の限界だ。ドイツ人幹部とともに経営の現地化を進める中で露呈した、様々な問題。それまでの経験でも、意思決定の迅速化やグローバルネットワークの構築は日本企業の成長にとって欠かせないと感じていた。これらの課題克服のため、世界水準のリーダーシップやスキルを是非とも会得したい。反射的に頭に浮かんだのは、IMDのEMBAだった。2016年、彼は社内の人事トップに直談判、留学の快諾を得た。

「国際的環境には慣れていたので、IMDに行っても違和感はありませんでした。でも、ディスカッションの『平場』に放り込まれるのは訳が違った。それまでは日本企業の駐在員という立場だったので、周囲もリスペクトして私の発言を聞いてくれました。しかし、IMDでは互いに対等の立場で議論を戦わせ、ゴールを目指す。スピード感も圧倒的に違います。初めて、本当のグローバルな戦いを経験した思いでした」

印象的だったのは、心理カウンセラーの「コーチ」と対面で向き合うリーダーシッププログラム。「自分は生まれてからどのような道のりを経て、今ここにいるのか。そして、何を成すべきなのか……徹底的に内省を試みるのです。人は、自分の過去を正当化したがるもの。例えば、ある意思決定のプロセスの検証でしたが、私が他人のことを思って決めたと言っても、コーチには『自分の過去を否定したくないからだ』とグサリとやられる。でも、コーチとの対話はとても楽しい経験でした」

 

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スイス軍施設内の宿泊スペースで

 

危機管理のプログラムも強く印象に残った。スイス軍が採用するトレーニングで、実際にスイス軍の基地に赴き、24時間態勢で問題への対応をシミュレーションする。

「空港で1日のうちに様々なトラブルが起きるという設定で、眠らずに意思決定を繰り返す。『大雪で管制が混乱』『SNSで空港の混乱状況が拡散し、炎上』『入国管理でミス発生』……といった事案ですね。マスコミ対応もあって、記者会見の場では白人の記者役が私に日本語で質問をしてくる。それを私が、『この場では英語でコミュニケーションを取ってください』と突っぱねる。受講生1人ひとりを熟知したプログラム設定には舌を巻きました。少数精鋭ならでは、ですね」

「1人の人間が不眠不休で意思決定を続けることはできません。故に誰が責任を担ってもクオリティーの高い意思決定ができるよう、チーム内でプロセスとフレームワークを明確にしておく。その重要性をこのプログラムで認識しました。同じく肝要なのは、複雑な問題を出来る限りシンプルに咀嚼する能力。交渉力も鍛えられ、確固たる自信を得ました」

同期のクラスには、世界各地から現役のエグゼクティブたちが多数集まった。ほとんどが40歳前後で、当時の彼よりも年上。すでに世の中の一線で活躍している彼らが真剣に学ぶ姿には、大きな感銘を受けた。「投資銀行やコンサルティング会社から産業界に移った経営層の人たちが、さらに学ぼうと仕事量を半分にしてIMDに来ていた。ですから、彼らの真剣味は圧倒的でした」

「そんな彼らがEMBAコースを終えてから、学びを生かして自社や業界の改善に取り組んでいく。改めて学び直すのに、40歳くらいはとても良い年齢だと感じました。日本ならば仕事が優先で、学ぶのは個人の勝手、と周囲が捉えてしまう。IMDを体験して、学び続けることの重要性、学びを世界に還元していくことの重要性が身に染みてわかりました」

 

imd alumni in switzerland - IMD Business School
授業後にクラスメートと食事

 

武田章男 (たけだふみお) プロフィール

1981年、北海道生まれ。立命館大学経営学部卒業後、当時の松下電器に入社。インダストリー営業本部を経て、UAE・トルコ・ドイツで勤務。2016年〜17年、IMDでEMBAを取得。2018年に帰国、電気自動車バッテリーのプロジェクトマネジメントや戦略に携わる。2020年、プライム プラネット エナジー&ソリューションズに出向、現在は同社GX戦略本部副本部長を務める。