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私のIMD留学体験(第2回)
〜 EMBA / 周麗文(AUO)

スイスのIMDで学び、MBAやEMBA(Executive MBA)を取得した人々がその体験談を語るシリーズ。第2回目は、EMBAコースを修了した台湾・液晶パネル大手AUO Corporation(友達光電)のシニアマネージャー、周麗文(チョウ・リウェン)さんにスポットを当てる。

IMD EMBA Discovery Expedition  - IMD Business School
日本でのディスカバリーエクスペディションで

 

不惑を前にして、周さんは壁にぶつかっていた。

東京で台湾の大手メーカーに就職し、早10数年。セールスマネージャーからマーケティングマネージャー、そしてビジネス開発マネージャーと順調にキャリアを重ねてきた彼女だったが、初めて味わう焦燥感だった。

課題は、複数の事業部への対応。管轄するチーム内のコミュニケーションをどう取れば、「ワンチーム」としての力を発揮できるのか −− 物事がなかなか意のままに進まず、彼女は途方に暮れた。

この時期、個人的にも新しい挑戦をして、レベルアップを図りたいと考えていた。「自分は他にどのような可能性を持っているのか。30代のうちに、何か他のことを試してみたかったのです」

そのためには、今いる環境を大きく変えることがいい。20歳で来日してからは大学、会社とずっと東京での生活。「同じ環境の中で、気付けば閉塞感に囚われていた。世界を広げ、英語でコミュニケーションを取る環境で、改めて自分を磨きたいと考えました」

熟慮の末、彼女が選んだのはIMD。EMBAコースなら今の仕事を続けながら学び、学位を取得できる。仕事に合わせて柔軟に受講スケジュールが立てられるので、夏休みや有給休暇を利用すれば対応できる。AUO創業者をはじめ同社幹部の多くがIMDに留学し、エグゼクティブプログラムで学んだことも背中を押した。上司に話すと、快くサポートを約束してくれた。

こうして2018年、IMDに入学。まずはスイス・ローザンヌに渡り、キャンパスで3週間の授業。それから東京に戻り、1カ月のオンライン授業。さらに試験を経て、米国や日本などでの「ディスカバリー・エクスペディション」プログラムへの参加……。

自身の仕事も忙しく、たっぷりと間隔を空けて一つひとつの課題をクリア。途中、コロナ禍でいくつかのプログラムが延期になるなどし、在学期間は延べ3年に及んだ。「時間をかけて学んだことが逆に良かった気がします。1つひとつの学びを普段の仕事で実践しながら、自分の中でじっくりと熟成させることができた」

IMD EMBA alumni dinner  - IMD Business School
他のクラスとの交流会女性のみのパーティー

 

「全てのプログラムが有意義でした。ファイナンス、戦略とマーケティング、デジタル変革、クリティカルシンキング(批判的思考)、カルチャー……特に印象的だったのはリーダーシッププログラムです」

リーダーシッププログラムでは受講生1人ひとりにコーチが付き、じっくりと向かい合う。「心理学のメソッドを取り入れ、自身の幼少期まで遡って家族や友人、会社での人間関係を点検していく。仕事をこなしながらの受講は、やはり楽ではありません。仕事上の問題が起きた時は、コーチがプロフェッショナルな視点からサポートをしてくれ、とても有意義だった。受講生に対する心のケアが万全で、大きな安心感を得られました」

プログラムで彼女が会得したのは、「既成概念に囚われない思考」だ。「部下が思うように動いてくれなかった場合、どう対処すべきか。人の可能性を引き出す術や異なるアプローチを、理論だけにとどまらず実践で学べた」

クラスで一緒に学んだ同期生は、約30にわたる国々の出身者。当然、各人の持つコミュニケーション手法は大いに異なる。「おかげで、グループダイナミクスの神髄を掴めた気がします」

もう1つの学びは、「自己のバウンダリー(限界)の認識と拡大」。「自分ではなかなか自分のバウンダリーがわからない。それをきちんと把握して、能力の向上に努める。能力の範囲内でマネジメントを行えば、失敗することはありません」

今では「ハイレベルな戦略的対話もこなせるようになった」と語る周さん。「自分の考えを整理し、きちんと裏付けて提案できるようになったことが大きな進歩」。また、「新しい取り組みなどを否定的に考えることがなくなった。何事もポジティブに捉えられるようになりました」

他者とどうコミュニケーションを取り、どうコラボレーションをして目的を達成するか −− そうした適応力を養えたことで、新たな責任感も生まれたという。「常に考えているのは、十分な達成感を皆で共有すること。それを念頭に置いて、物事をどう進めていけばいいか判断します」。そこから派生して、「自社の企業文化をどう育てていくか」というテーマも己に課す。

2020年にはビジネス戦略担当のシニアマネージャーに昇進。今、日本で抱えるクライアントは20社余りだ。「日本の企業はどこも、我々台湾企業の文化を尊重してくれる。どのクライアントとも良好な関係が築けています」

大学時代にジェンダー学を学んだこともあり、日本の企業社会で気になるのはやはり女性の活躍。台湾の本社では女性管理職が珍しくない。「クライアントと会議をすると、日本側は全員男性、こちらは全員女性ということも少なくない(笑)」

「1人の外国人女性が20年間、日本のビジネス界を生き抜いてきた。自分で言うのも変ですが、これはやはり普通のことではないと思うのです。微力ながら、女性の社会進出に少しは貢献できているかな」

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ローザンヌにて授業後にクラスメイトとハイキング

 

周麗文(チョウ・リウェン)プロフィール

 1979年、台湾・雲林県出身。98年に来日、日本語学校を経てお茶の水女子大学教育学部、東京大学大学院総合文化研究科卒業。2005年、AUOに入社。セールスマネージャー、マーケティングマネージャー、ビジネス開発マネージャーを経て、ビジネス開発シニアマネージャーに。2021年からはAUOが100%出資するAUO Display Plus Corporationで同職を務める。