BPSEで学んで

〜田中義久 /
パナソニック オペレーショナルエクセレンス㈱

昨年6月、パナソニック オペレーショナルエクセレンス㈱  執行役員の田中義久さんは IMDのシニアエグゼクティブ向けプログラム「Breakthrough Program for Senior ExecutivesBPSE)」に参加した。10日間という短期集中型のプログラムで、彼は何を学んだのか。  

海外勤務経験がない田中さんがBPSEに参加しようと決めた理由は、「ステークホルダーの国際化」。リーダーになる人間には国際的な視野が必要、と考えたからだ。  

それまで仕事で英語を使う機会はほとんどなかった。ゆえに「通常の英会話学校では受講に間に合わない」と判断し、 MBA(経営学修士)に取り組む人々を対象とした英会話学校に入学した。  

「授業は週1回、2時間でしたが、週に1520時間は勉強しないとついていけないような課題が出た。非常にシビアな内容でした」。スクールは4カ月ほどで終了。あとは独学で語彙力を磨き、延べ9カ月ほどかけて英語力を身に付けた。  

田中さんはパナソニック(当時の松下電器)に新卒で入社。経営企画や社長秘書、渉外といった本社系の業務、BtoBICTに関わるシステムソリューション事業、車載機器事業といった分野をそれぞれ約10年間にわたり経験した。  

「私は国内での仕事経験しかなかったので、上司からは海外での研修プログラムを勧められました。弊社の幹部研修はそれまで社内研修がメインでしたが、2021年に大きな組織再編があり、社内研修も見直すことになった。しかし利用できるような研修がなく、海外のビジネススクールをいろいろ探してIMDのプログラムを知りました。参加者の多様性が米国などに比べて豊かな欧州のビジネススクールということで、IMDを選んだのです」  

10日間のプログラムは大きく分けて2つの異なるパートから構成。1つはコーチングなどを通じた自己理解の促進、もう1つはケーススタディを含め、変化が激しい世界のビジネスの最先端や企業変革を学ぶものだった。  

 コーチングセッションは5人の参加者が1つのグループを作り、コーチが1人ずつ付く。コーチングはコーチとだけではなく、メンバー間でも行われた。田中さんにとっては「とてもパワフルで、驚きの連続」だった。  

コーチングセッションでは、事前に自己理解と内省を促す課題が出た。自己の来し方を振り返り、熟考。「プライベート」と「プロフェッショナル」の双方が充実していないと、個人として満足いく状態にならないからだ。  

「セッションはチームメンバーそれぞれが人生のかなり深い話を共有するところから始まります。その後も様々な協働作業を行いながら、お互いに性格や価値観についての理解を深めていく。参加者同士のコーチングでは私が『こういうことをしたい』と言うと、他の参加者から『あなたには向いていない』『別の方法がいいのでは』などと指摘されました。私の性格分析では『ウィニング(勝利を得る)』と『エンデュアランス(忍耐)』の評価が低かったので、ベンチャーやスタートアップのリーダーには向いていないという結果が出、自分でも納得しました」  

自分の部下や上司から360度の評価を受ける課題もあった。それらのフィードバックで、彼は自己の価値観を的確に見つめられたという。  

「日本の会社員は自己の価値観を整理し直す機会があまりないように思います。私自身もそうでした。ですからいろいろな指摘やフィードバックを受けると、自分にとって楽しいことや喜びを得られることを改めて認識できる。私もある程度年齢がいっているので、全く経験がないことや不得手なことより、自分の性格や過去に満足感を得た仕事を踏まえ、次のステップや夢に挑戦していく方が合理的だと思いました」  

日本の大手企業では人事部や上司次第でキャリアが決まる傾向がある。自分で考え抜いて物事を決めたり、キャリアを主体的に構築したりすることがあまりなかったことに改めて気付かされた。  

ケーススタディのセッションでは、DXやデジタルディスラプション(破壊的イノベーション)など、企業の組織風土を急速に変えつつ戦略を構築することを学んだ。  

「最も印象的だったのは組織風土、いわゆる企業文化に着目した学びです。日本の大手企業はそれほど人が入れ替わらないので、良くも悪くも『うちの会社はこうだよね』という文化が根付いてしまう」  

さらに日本では、組織風土だけに焦点を当てて議論する傾向があることに気付いた。「例えば上司との会話、部下との会話はこうあるべきだ、といったような……。ところが戦略や評価制度、組織構造などは、組織風土の議論とは全く切り離されて決定・改変されることが多い。つまり、ヒエラルキー型の組織風土でフラットな関係づくりを進めようとする、といった不整合が起きてしまうのです」  

「肝要なのは、あらゆる要素が組織風土に結びついていると捉え、 一貫性を持ってアプローチすること。それを学べた点が非常に大きかった」  

最後のまとめでは、自分の目標を成功させるために今から3か月以内でできるアクションプランを列挙し、プレゼンする課題が出た。  

「参加者は、CEOも含めた経営幹部職や執行役員クラスが5割ほど。平均年齢はほぼ50歳でした。彼らにとって次のステップを目指すのは当然なのでしょうが、そういう姿勢には刺激を受けた。皆、強い精神力を持ち、運動をしていて肉体的にも健康な方々が多かった。海外企業の場合、リーダーは最初からリーダーとして会社に入ることが多く、すぐに結果を出さねばならないプレッシャーを受ける。自覚を持って仕事をするというのはこういうことかと触発されました」  

帰国後、田中さんは学びの大切さを改めて周囲に説いた。  

「もっと自分で学び、もっとチャレンジして成長しようという姿勢を自分がまず先導し、周囲も共感してくれたように思います。BPSEを経験して、本当の意味での成長の重要性を伝えられるようになった。英語力を上げることも大事ですが、それ以上に新たな学びを得ることが重要ですし、成長すればチャンスが広がることを改めて実感しました」  

  

  田中義久  (たなかよしひさ ) プロフィール

パナソニック オペレーショナルエクセレンス(株) 執行役員渉外本部本部長。202211月にOWPシンガポール、20236月にBPSEに参加。