IMD世界競争力センター(World Competitiveness Center)は9月21日、「IMD世界人材ランキング」(以下世界人材ランキング)の2023年版を発表いたしました。本ランキングは64カ国・地域を対象に、人材に関する国・地域ごとの投資、育成、誘致、準備の状況を公的な統計やエグゼクティブ対象のアンケート結果などをもとに比較。日本は前年調査から2つランクを下げ、過去最低の43位となりました。全体では、コロナ禍で定着したリモートワークに対する評価の変化や、コロナ以前の水準に戻った国・地域、そうでない国・地域の違いが鮮明になっています。
※世界各国の結果はこちら。
日本の結果
「総合順位」:前年から2つ順位を下げた43位になりました。2019年(35位)以降毎年順位が下がり続け、調査が開始された2005年以降で最低となりました。
ランキングを構成する3つの要素別評価
「投資と開発」:2018年に23位だった順位は、2019年には30位に下落し、コロナ禍が広がった2020年以降、30位代後半に下がりました。2023年も同様の傾向(36位)です。要素を構成する各基準を見ると、企業による「従業員教育の優先度合い」の相対的低下(30位→35位、エグゼクティブ調査)が目立ちます。また「教育への公的投資(対GDP比)」(53位)、「同(対生徒・学生比)」(26位)など、学校教育に関する統計数値も芳しくありません。
「魅力」:2018年以降最も高い23位まで改善しました。エグゼクティブ調査では、「人材の確保と定着」を重視する姿勢(4位)が上位だったほか、「働き手の意欲の高さ」も32位から24位へと大きく改善、「生活の質」の評価(24位)も向上しています。「経営陣の報酬」も高い順位(7位)となりました。「司法の公正さ」(11位)も高い順位にあり、国外人材が働く場としての日本のポテンシャルを示しています。一方、「外国人高度技能人材」が日本のビジネス環境に魅力を感じているかに関しては、エグゼクティブ調査で前年同様54位と低迷しています。また「頭脳流出」の競争力への影響に関する見方(44位)も厳しくなっています。
「準備」:2018年調査では41位でしたが、その後下落傾向が続き、今回は43位でした。エグゼクティブ調査では、「上級管理職の国際経験」への評価が、調査対象国の中で最下位(64位)となりました。また「有能な上級管理職」(62位)「語学力」(60位)と、管理職のスキル不足への強い危機感が示されたほか、「マネジメント教育」(60位)も不十分である、との認識が示されました。
高津尚志 IMD北東アジア代表のコメント
今回の「IMD世界人材ランキング」では、日本の構造的課題が依然未解決である現状が明らかとなりました。
労働人口が急減する中、今後の日本経済の維持成長には、国内人材の適切な育成、国外の高度人材の誘致、人材の多様化(年齢、ジェンダー、国籍、専門領域など)が不可欠です。これらの人材の活躍や貢献の推進を現場で担うのは経営・管理職ですが、ランキングでは、管理職の能力、国際経験、語学力の不足と、管理職教育の未整備が示されました。
経営環境で人材が果たす役割の大きさに鑑みると、日本の総合的な競争力やデジタル競争力の先行きへの懸念を抱かせるものだ、と危惧しています。 逆に言えば、経営・管理職の能力向上への適切な投資(機会、経験、教育の提供)が、日本が持つ科学技術基盤などの強みを開花させる可能性を秘めている、ともいえると思います。
*IMD世界競争力ランキング:2023年5月発表。日本は過去最低の35位。 **IMDデジタル競争力ランキング:2023年11月発表予定。2022年版で日本は29位。
「世界人材ランキング」について
世界人材ランキングは、その国(経済)で活動する企業に必要な人材を、どの程度育成し、惹きつけ、維持できているかを国・地域別に把握する目的で実施しています。今年は新たにクウェートが加わり、64カ国・地域が調査対象となりました。計31の基準からなる、次の3つの要素で評価しています。
・投資と開発:自国内の人材への投資と育成の状況を測定
・魅力:国内外の人材を惹きつけ働き続けられる環境を測定
・準備:自国内で蓄積されている人材の能力・スキルの質を測定
31の基準は、公的統計のほか、世界約4000人のエグゼクティブが回答するアンケートの結果から数値化、3要素の順位をそれぞれ算出しています。また64カ国・地域を「西欧」「南米」「旧CIS・中央アジア」「東欧」「南アジア・太平洋」「西アジア・アフリカ」「東アジア」「北米」の8地域に区分し、それぞれの動向も分析しています。